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岡山地方裁判所 昭和55年(ワ)324号 判決 1984年11月19日

原告

坂本賜美

右法定代理人後見人

坂本一吉

原告

坂本一吉

原告

坂本君代

右三名訴訟代理人

近藤昭

林俊夫

被告

千代田火災上保険株式会社

右代表者

伊藤祐太郎

右訴訟代理人

平井昭夫

主文

一  被告は原告坂本一吉、同坂本君代に対し、それぞれ二六三一万〇五五八円及びこれらに対する昭和五四年九月七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告坂本賜美の請求、原告坂本一吉、同君代のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告坂本一吉、同君代と被告との間においては、これを五分し、その四を被告その余を同原告らの負担とし、原告坂本賜美と被告との間においては全部同原告の負担とする。

四  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告らに対し、各自六一九六万七六六〇円及びこれに対する昭和五四年九月七日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和五四年一月二八日午後五時二〇分頃

(二) 場所 岡山県御津郡加茂川町小森字弁蔵地内旭川ダム

(三) 事故自動車(以下、「本件自動車という」。)

(1) 登録番号 岡五六そ一八七〇

(2) 運転者 坂本半次郎

(3) 所有者 株式会社坂本建築(以下、「坂本建築」という。)

(四) 事故の態様

半次郎が、本件自動車に坂本光子、坂本節子、坂本弘美、坂本建二、坂本竜一及び原告坂本賜美を同乗させ走行中、旭川ダムに転落し、原告賜美を除くその他の同乗者(以下、「被害者ら」という。)運転者は溺死した。

2  身分関係

原告一吉、同君代は半次郎の父母、半次郎及び光子は、節子、弘美、建二、竜一、原告賜美の父母で、かつ夫婦である。

3  責任原因

(一) 坂本建築は、本件自動車の保有者として自賠法三条の責任がある。

(二) 被告は、坂本建築との間で本件自動車につき、自賠法所定の自動車損害賠償責任保険契約(以下、「強制保険」ないし「強制保険契約」という。)を締結していた。

(三) 原告らは、本件事故による坂本建築に対する自賠法三条の損害賠償請求権(原告ら独自の分と被害者らからの相続取得分)を有するので、同法一六条に基づき、これを被告に直接請求する。

(四) 原告らの被告に対する右債権は不可分債権である。即ち、

(1) 右債権が当然に分割されるとするならば、後に分割されるべき相続財産に属しないことになり、共同相続人である原告らにとつて不都合である。

(2) 死亡事故が生じ共同相続人が保険金を請求する場合、保険会社の扱いの実際は、個々の相続人の個別的な保険請求は一切認めず、共同相続人中の一人を代理人に立てて請求させ、保険金の支払も、個々人の区別をせず、一括してその支払をなしている。

このような運用の実際からみても、原告らの債権は不可分債権である。

(3) 右(1)(2)の主張が認められないとしても、原告賜美及び同君代は、保険金請求を原告一吉に委任したから、同原告に対して、本訴訟請求額を認められたい。

4  損害

(一) 光子分

逸失利益 一四三〇万六六六四円

(1) 職業 主婦

(2) 死亡時年令 三五歳

(3) 年間所得 一五二万一五〇〇円

但し、昭和五二年賃金センサス同年令の主婦の平均所得額。

(4) 生活費 五割

(5) 就労可能年数 三二年間

(6) ホフマン係数 18.806

(二) 節子分

逸失利益 一七六三万五三三五円

(1) 死亡時年令 一一歳

(2) 年間所得 一七二万三八〇〇円

ただし、昭和五二年賃金センサス新高卒女子三〇〜三四歳の平均所得額

(3) 生活費 五割

(4) 就労可能年数 四九年間

(5) ホフマン係数 20.461

(三) 弘美分

逸失利益 一六五一万四〇〇四円

(1) 死亡時年令 八歳

(2) 年間所得 一七二万三八〇〇円

ただし書きは、(二)に同じ。

(3) 生活費 五割

(4) 就労可能年数 四九年間

(5) ホフマン係数 19.160

(四) 建二分

逸失利益 二七三三万四〇三七円

(1) 死亡時年令 七歳

(2) 年間所得 二九一万三三〇〇万ママ円

ただし、昭和五二年賃金センサンママ新高卒男子三〇〜三四歳の平均所得額。

(3) 生活費 五割

(4) 就労可能年数 四九年間

(5) ホフマン係数 18.765

(五) 竜一分

逸失利益 二六二五万六一一六円

(1) 死亡時年令 五歳

(2) 年間所得 二九一万三三〇〇円

ただし書きは、(四)に同じ。

(3) 生活費 五割

(4) 就労可能年数 四九年間

(5) ホフマン係数 18.025

(六) 原告一吉、同君代分

各一九六九万八五八〇円

(1) 慰藉料 各一八〇〇万円

内訳

・ 光子分 各二〇〇万円

・ 節子、弘美、建二、竜一の一人につき 各四〇〇万円宛

(2) 治療費 各二万九三五〇円

内訳

・ 光子分 一万三八二五円

・ 節子分 一万三八二五円

・ 弘美分 二五〇〇円

・ 建二分 一万四七二五円

・ 竜一分 一万三八二五円

以上合計五万八七〇〇円の各二分の一

(3) 救助費 各三一万七二三〇円

内訳

光子、節子 弘美、建二、竜一の一人につき 各一二万六八九二円

以上合計六三万四四六〇円の各二分の一

(4) 葬儀費 各一三五万円

内訳

・ 光子分 七〇万円

・ 節子、弘美、建二、竜一の一人につき 各五〇万円

以上合計 二七〇万円の各二分の一

(5) 文書料 各二〇〇〇円

内訳

光子、節子、弘美、建二、竜一の一人につき 各八〇〇円

以上合計 四〇〇〇円の各二分の一

(6) 以上(1)ないし(5)の総合計 各一九六九万八五八〇円

(七) 原告賜美分 一六〇〇万円

慰藉料

内訳

・ 光子分 八〇〇万円

・ 節子、弘美、建二、竜一の一人につき 二〇〇万円

以上合計 一六〇〇万円

(八) 以上(一)ないし(七)の総合計金一億五七四四万三三一六円

5  原告らは、被告に対し、昭和五四年六月頃、保険金請求の手続をし、被告から支払い通知があつたが、右支払額が不服であつたため、昭和五四年九月六日、被告に対し異議の申立をした。

6  よつて、原告らは被告に対し、各自右損害額総計一億五七四四万三三一六円の内金六一九六万七六六〇円及びこれに対し右異議申立の日の翌日である昭和五四年九月七日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める

2  同2は認める

3  同3のうち(一)(二)は認め、(四)は争う。

4  同4は否認する。

なお、損害額について、後述の抗弁とを合わせた被告の主張は別表一記載のとおりである。

5  同5は認める。

三  抗弁

1  混同

(一) 昭和五四年一月二八日午後五時三〇分に光子、節子、建二、竜一の四名が死亡し、その後同日午後五時五〇分に半次郎、弘美の二名が死亡しており、前者四名と後者二名がそれぞれ同時死亡である。

(二) 坂本建築は株式会社といつてもその実質は半次郎の個人企業であり、本件自動車も一応坂本建築の名で登録され強制保険も締結されているが、あるときは半次郎個人ないし半次郎の家族のため使用され、またあるときは坂本建築の業務のため使用されていた。しかも、本件事故は、半次郎の家族全員が半次郎の妻光子の実家の墓参りに、半次郎の運転する本件自動車に同乗して行き、墓参りをすませた帰途において発生している。

即ち、本件自動車は坂本建築がこれを保有していたのみでなく、半次郎もまたこれを保有していた。

(三)従つて、原告賜美及び被害者らは坂本建築と半次郎に対して、自賠法三条に基づく損害賠償請求債権がある。

このうち半次郎を債務者とする債権の相続関係につきみるに、次のとおり混同が生じる。

(1) 原告賜美独自の債権

半次郎の死亡により、同人の債務全部を原告賜美が相続するため、原告賜美独自の債権は混同により消滅する。

(2) 光子の債権

前記(一)の同時死亡の関係で、光子の死亡により光子の債権の各三分の一が夫の半次郎と子の弘美と原告賜美に相続され、半次郎相続分は混同により消滅し、次いで、弘美と半次郎の同時死亡により半次郎の債務を原告賜美が相続し右原告賜美の光子からの相続取得分は混同により消滅し、結局原告一吉、同君代は光子の債権のうち各六分の一を相続するだけとなる。

(3) 節子、建二、竜一の債権は、同人らの死亡により半次郎が相続し、すべて混同により消滅する。

(4) 以上の経過により、最終的に残るものは、光子の債権のうち弘美を通じて原告一吉、同君代が相続したその各六分の一、弘美の債権の原告一吉、同君代の相続分二分の一となる。

(四) ところで、右(二)の事実によれば、本件事故当時における共同保有者である半次郎と坂本建築の具体的運行に対する支配の態様は、半次郎については正に直接的・顕在的・具体的であるのに対し、坂本建築については間接的・潜在的・抽象的にしかすぎず、その内部の負担割合は半次郎が一で坂本建築が零である。

そして、不真正連帯債務者間において、負担割合が一の債務者の債務が混同で消滅すれば負担者零の債務者の債務も運命をともにして消滅するのであつて、半次郎を債務者とする債務が前記(三)のとおり混同で消滅する以上、坂本建築を債務者とする債務もその限度で消滅する。

原告らの本訴請求は、本件事故による坂本建築に対する自賠法三条の損害賠償請求権を、同一六条に基づき被告に対し直接請求するものであるから、坂本建築の負担する債務以上のものを請求し得ない。即ち、原告の本訴請求も前記(三)8の混同の影響を受ける。

2  損害額の算定にあたつて斟酌すべき事項

次のような諸事情が存在し、公平・信義則の観点から損害額を大幅に減額すべきである。

(一) 運転者の故意又は重大な過失

本件事故は、半次郎が一家を道連れにした自殺行為によつて引き起こされたものである。仮にそうでないとしても半次郎の重大な過失によつて惹起さたものである。

(二) 親族間事故

本件事故は加害者を含めると一家のうち六名が一つの事故で死亡するという特殊な親族間事故であり、しかもその親続人(原告一吉、同君代)が限られた一部の人であり、しかも死亡した者と生計を異にしていた。

(三) 被害者側の過失の理論の類推

被害者の一人である光子は運転免許を有し、いわゆるオーナードライバーとして加害者である半次郎とともに日常的に自動車の運転をしており、本件事故当時も助手席に同乗して半次郎の運転補助者的立場にあつた。

(四) 好意同乗

被害者らは、半次郎の運転のもとに日常的に本件自動車に乗つており、たまたま本件事故当時に無償で乗車したというのではなく、いわゆる好意同乗の中でも常用型好意同乗の事例である。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)の事実は否認する。被害者ら及び半次郎は同時に死亡したものである。

(二)  同1(二)ないし(四)の主張は争う。

2  抗弁2の主張はすべて争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1、2、3(一)(二)の事実は当事者間に争いがない。

右事実によれば、原告らは、坂本建築に対し、本件事故による自賠法三条に基づく損害賠償請求権(原告ら独自の分と被害者らからの相続取得分(この詳細については後に検討する))を有し、同法一六条によりこれを被告に直接請求する権利がある。

原告らは右権利(債権)は不可分債権である旨主張し、その根拠として請求原因3(四)(1)(2)の事項をあげているが、いずれも不可分債権となる根拠とはなり得ず、原則どおり原告ら独自の分は、各原告が個別行使し、被害者らからの相続取得分は相続により分割債権となると解さざるを得ない。

また原告らは原告賜美及び同君代は、保険金請求を原告一吉に委任したから、同原告に、本訴請求額を認められたい旨主張するが、仮に右委任が存在したとしても、訴訟上自己個有の権利としてこれを請求し得ないこと明らかである。

二抗弁1(混同)につき検討する。

1  被害者らの死亡時期

<証拠>によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故は旭川ダム沿いの道路から旭川ダムに転落したものであるが、転落現場は勾配の急な崖で道路から旭川ダムの水面まで9.5メートルあること

(二)  原告賜美は、本件事故後、割れた窓ガラスからはい出て、泳いで岸にたどり着き、岸から垂れ下がつている小枝を握つて水中にいたところを、通りかかつた池口親子に救助されたこと

(三)  また本件事故後、本件事故現場より三〇メートル先に立泳ぎしている人がいたことが目撃されていること

(四)  光子、節子、建二、竜一の四名の死体は、事故当日の昭和五四年一月二八日引き揚げられ、福渡病院の平川弘泰医師の死体検案を受けたこと、同医師は各死体検案書に直接死因溺死、傷害発生年月日時分及び死亡年月日時分昭和五四年一月二八日午後五時三〇分頃、発病から死亡までの期間〇時間と記載したこと、右発病から死亡までの期間を〇時間としたのは、転落後二〜三分は生きていたかも知れないが、一時間も生きてはいなかつただろうとの判断であつたこと、また傷害発生年月日時分については居合せた警察官の報告をそのまま記載した

(五)  半次郎、弘美の二名の死体は、事故の翌日引き揚げられ、小森温泉診療所の草地敏治医師の死体検案を受けたこと、同医師は各死体検案書に直接死因溺死、傷害発生年月日時分昭和五四年一月二八日午後五時四五分頃、死亡年月日時分同日午後五〇分頃、発病から死亡までの期間約五分間と記載したこと、右発病から死亡までの期間を約五分間としたのは、本件事故当時は冬であり自動車の窓ガラスは閉められていただろうから、水中に入つても自動車内の空気のため直ちに死亡していなかつたとの判断であつたこと、また傷害発生年月日時分については居合せた人や警察官の話を聞き推定で記入したこと

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によると、死亡時刻についての草地、平川両医師の判断が異なつたのは、本件事故発生日時についての居合せた人の報告が異なつたためであつて、仮に同一の医師により被害者らの死体検案がなされていたならば、被害者ら全員につき同一の死亡時刻の判定がなされたと考えられ、右死体検案書の死亡年月日時分欄の相異及びこれに基づく死亡届による戸籍への記載(成立に争いのない乙第一・二号証)から、半次郎と被害者らの死亡の前後関係を認めるのは難しい。

また前記認定事実によれば、本件事故後、本件事故現場より三〇メートル沖合に立泳ぎしている人が目撃されており、また原告坂本賜美本人の「父(半次郎)も車から出て浮いていた。服の色で父だと思いました。」との供述部分も存在する。しかし、半次郎以外の人もしばらくの間生存していた可能性を否定し去るだけの証拠もないから、右事実や供述から死亡の前後関係を判定するのは困難である。

結局半次郎と被害者らの死亡の前後関係は明らかでなく、民法三二条の二を適用して、同時に死亡したものと推定するほかはない。

2  <証拠>によれば、坂本建築は株式会社といつても半次郎の個人企業に近いものであり、本件自動車も坂本建築の名で登録され強制保険も締結されているが、会社の業務と関係なく、半次郎個人ないし半次郎の家族のため半次郎が運転して使用することもかなり多かつたこと、現に本件事故は、半次郎の家族全員が半次郎の妻光子の実家の墓参りに行つた帰りに発生していることが認められる。

右認定事実によれば、坂本建築だけでなく半次郎個人も自賠法所定の保有者であつたと解せられる。

3  そうすると、原告賜美及び被害者らは坂本建築と半次郎に対し自賠法三条に基づく損害賠償請求権があることになる。

このうち半次郎を債務者とする損害賠償債権の相続関係につき判断する。

(一)  原告賜美独自の分

半次郎の債務全部を原告賜美が相続した結果、債権債務が同一人に帰し、混同によつて消滅する。

(二)  光子の分

光子の半次郎に有していた債権とその半次郎の債務の各全部を原告賜美が相続し、混同によつて消滅する。

(三)  節子・弘美、建二、竜一の分

右被害者らの債権は、各二分の一ずつが祖父母である原告一吉、同君代が相続し、半次郎の債務は原告賜美が相続することになり混同が生じない。

4 ところで、右2認定事実によれば、本件事故当時における共同保有者である半次郎と坂本建築の具体的運行に対する支配の態様は、半次郎については正に直接的・顕在的・具体的であるのに対し、坂本建築については間接的・潜在的・抽象的にしかすぎず、その内部の負担割合は半次郎が一で坂本建築が零であるということができる。

そして、いわゆる不真正連帯債務といえども、負担割合が一の債務者の債務が混同で消滅すれば、負担割合零の債務者の債務も運命をともにして消滅すると解せられ、従つて、半次郎の原告賜美に対する債務(原告賜美独自の分と光子からの相続した分)が右3のとおり混同で消滅する以上、坂本建築の原告賜美に対する債務も消滅する。

よつて、原告賜美の被告に対する自賠法一六条の直接請求たる本訴請求は、その前提たる坂本建築の自賠法三条の債務が右のとおり消滅しているから、理由がないといわざるを得ない。

三抗弁2につき

1  被告は、本件事故は半次郎の故意により惹起された旨主張するので検討する。

<証拠>によれば次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場付近の道路は、幅員4.6メートル、西側が切りたつた崖で、東側は旭川ダムであるが、旭川ダムへの転落を防止するためガードレールが設置してあること、右ガードレールは道路沿いに延々と続いていたが、本件事故現場は、たまたまガードレールの切れ目(切れ目の幅約2.74メートル)となつていたこと

(二)  半次郎は、墓参りの帰り、一旦本件事故現場を通りすぎたが通行止のため、引き返し、本件事故現場直前で、いつたん本件自動車を道路の左側ぎりぎりに寄せたうえ、急激にハンドルを右に転把し、前記ガードレールの切れ目を通つて、旭川ダムに転落して本件事故が発生したこと

以上の事実が認められる。

しかしながら、本件事故が発生したのは、一月二八日午後五時二〇分頃であり、かなり薄暗かつたと考えられ、このことに<証拠>を総合すると、半次郎は、ガードレールの切れ目を前方にある江与味橋に至る道だと錯覚した可能性が多分にあり、前記認定事実から半次郎の故意を認めるのは難しく、他にこれを認めるに足る証拠はない。

なお、被告は、半次郎の故意が認められないとしても重大な過失があつた旨主張するが、仮に、半次郎に重大な過失があつたとしても、損害額算定の減額事由になるとは解されない。

2  抗弁2(三)につき

既に光子の債権は混同により消滅している旨の判断をしているので、この点の判断をしない。

3  抗弁2(二)、(四)につき

既に述べたところによれば、本件事故は、加害者を含めると一家のうち六名が一つの事故で死亡するという親族間の事故であること、本件自動車はいわゆるファミリーカーとしても利用され、被害者らは半次郎の運転のもとに日常的に乗車していたことは、明らかである。そして、運転者は被害者らにとつて父親であること等考慮すれば、慰藉料については相当な減額事由に当ると解する。

四損害

1  節子独自の損害

(一)  逸失利益 一一六七万九一三八円

(1) 死亡時年令 一一歳(成立に争いのない乙第一号証により認める。)

(2) 就労可能年数 一八歳から六七歳まで四九年間

(3) ホフマン係数 20.461

(4) 年収 一一四万一六〇〇円

昭和五二年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計の一八歳から一九歳の女子の平均給与額(成立に争いのない甲第六号証の二)

(5) 生活費 五割

(6) 計算

114万1600円÷2×20.461=1167万9138円

(二)  節子独自の慰藉料 七五万円

前記三3の事情を斟酌して決定した(以下、同様)

(三)  合計 一二四二万九一三八円

2  弘美独自の損害

(一)  逸失利益 一一一七万二二六八円

(1) 死亡時年令 九歳(前記乙第一号証により認める)

(2) 就労可能年数 一八歳から六七歳までの四九年間

(3) ホフマン係数 19.573

(4) 年収 一一四万一六〇〇円

前記1(4)に同じ。

(5) 生活費 五割

(6) 計算

114万1600円÷2×19.573=1117万2268円

(二)  弘美独自の慰藉料 七五万円

前記1(二)に同じ。

(三)  合計 一一九二万二二六八円

3  建二独自の損害

(一)  逸失利益 一二〇二万三六七三円

(1) 死亡時年令 七歳(前記乙第一号証より認める。)

(2) 就労可能年数 一八歳から六七歳まで四九年間

(3) ホフマン係数 18.765

(4) 年収 一二八万一五〇〇円

昭和五二年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計の一八歳から一九歳の男子の平均給与額(前記甲第六号証の二)

(5) 生活費 五割

(6) 計算

128万1500円÷2×18.765=1202万3673円

(二)  慰藉料 七五万円

前記1(二)に同じ。

(三)  合計 一二七七万三六七三円

4  竜一独自の損害

(一)  逸失利益 一一五四万八八七八円

(1) 死亡時年令 五歳(前記第一号証により認める。)

(2) 就労可能年数 一八歳から六七歳まで四九年間

(3) ホフマン係数 18.024

(4) 年収 一二八万一五〇〇円

前記3(4)に同じ。

(5) 生活費 五割

(6) 計算

128万1500円÷2×18.024=1154万8878円

(二)  慰藉料 七五万円

前記1(二)に同じ。

(三)  合計 一二二九万八八七八円

5  原告一吉、同君代独自の損害

(一)  慰藉料 〇円

同原告ら独自の慰藉料を認むべき特別の事情を認めるに足る証拠はない。

(二)  葬儀費 合計二五〇万円

弁論の全趣旨により被害者ら各一人につき五〇万円を認める。

(三)  治療費 合計 五万八七〇〇円

(四)  救助費 合計 六三万四四六〇円

(五)  文書費 合計 四〇〇〇円

右(三)ないし(五)については弁論の全趣旨により請求原因4(六)(2)(3)(5)のとおり認める。

6  以上、被害者らの損害(右1ないし4)合計四九四二万三九五七円の各二分の一である二四七一万一九七八円を原告一吉、同君代が相続し、これに同原告らの独自の損害(右5)合計三一九万七一六〇円の各二分の一である一五九万八五八〇円を加えた二六三一万〇五五八円が原告らが坂本建築に対し、請求し得る金額となる。

7  右損害額を被害者らの死亡による損害として各被害者ごとにまとめれば、別表二記載のとおりとなり、いずれも強制保険金額を超えていない。

五請求原因5の事実は当事者間に争いがない。

六以上の事実によれば、原告らの請求のうち原告一吉、同君代が被告に対しそれぞれ二六三一万〇五五八円及びこれらに対する原告らの異議申立の日の翌日である昭和五四年九月七日から支払済まで民法所定年五分(最判昭和五七年一月九日判決民集三六巻一号一頁参照)の割合による遅延損害金の支払を求める部分に限り理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。 (東畑良雄)

別表 二

(当裁判所認定の損害額)

節子

弘美

建二

竜一

光子

1

逸失利益

11,679,138

11,172,268

12,023,673

11,548,878

46,423,957

2

慰藉料

750,000

750,000

750,000

750,000

3,000,000

3

葬儀費

500,000

500,000

500,000

500,000

500,000

2,500,000

4

治療費

13,825

2,500

14,725

13,825

13,825

58,700

5

救助費

126,892

126,892

126,892

126,892

126,892

634,460

6

文書料

800

800

800

800

800

4,000

7

13,070,655

12,552,460

13,416,090

12,940,395

641,517

52,612,117

但し、1、2は被害者ら独自の損害

3ないし6は原告一吉、同君代に生じた損害

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